2016年4月1日金曜日

外道クライマー

『外道クライマー』発売中。

http://honz.jp/articles/-/42617

角幡祐介氏の解説が全文読めます。

http://www.shueisha-int.co.jp/archives/3618

集英社インターナショナルの公式サイト


2016年3月21日月曜日

女子が三浦半島の突端を漂う

岳人の担当編集者である猪の毛皮に村上春樹膜をレイヤリングしている文学山男子こと服部文祥さんの「ツンドラ・サバイバル」(みすず書房)が第五回梅棹忠雄・山と探検文学賞を受賞した。服部さんがその賞金で太っ腹にも酒池肉林のパーティーを開き、それに僕を招いて下さるというので、浮くだろうなと思いながらも涎をダラダラと垂らして参加させて頂いた。ゴールデンピラー黒部横断をしている間、偶然にも仲間達と鹿肉の話で盛り上がり、無性に服部さんの鹿肉が食いたい欲求が盛り上がっていたので運命のタイミングだったのだ。大げさか。

――そのよくよく日、ポッと一日予定が空いてしまい、なんだかどうしようもなくムラムラと登山がしたい衝動が盛りあがり、いまや売れっ子大作家先生である角幡唯介に「明日、暇? 山に行かない?」と、電話をしてみた。
「難しい山は肘の手術したばっかだし、無理」
「登攀がない藪山だったらどう?」
「それも無理」
「じゃあハイキングならどうよ」
「ハイキング!? なにそれ、メンドクサイし。(笑)、飯だったら行くよ」
そりゃそうだ。電話を切ったあとに6秒間ぐらい悩み、そういえばと、服部パーティーで頂いた名刺の一番上のイラストレーターの神田さんに駄目元でコールしてみた。すると彼女は強い警戒心を抱きながらもこの直前の誘いに応じてくれた。軽く食事をした程度の間柄でしかないのに素晴らしい行動力だ。彼女はハイキングしかしたことが無いとのことだが、きっと藪ヤや沢ヤに向いているのではないか。








「・・・・・・」














2016年3月7日月曜日

黒部横断

厳冬期黒部横断
2016年2月3日~3月2日(31泊32日)
ギリギリボーイズ登山隊
伊藤仰二 / 佐藤裕介 / 宮城公博

大谷原~赤岩尾根~鹿島槍ヶ岳~牛首尾根~十字峡~黒部・剣沢大滝ゴールデンピラー登攀~黒部別山北尾根~真砂尾根~別山尾根~劔岳~早月尾根~馬場島~伊折

2008年に馬場部長と共に劔岳に入る許可申請の為に登山隊名を考え、居酒屋で適当に決めたのが「セクシー登山部」だった。その年、僕らと同様の理由で登山隊名を「ギリギリボーイズ」として申請し、黒部横断に挑戦したのが伊藤仰二・佐藤裕介・横山勝丘のトリオだ。僕らセクシー登山部は荒れ狂う劔岳になすすべなく逃げ出したが、ギリギリボーイズは黒部横断を命からがら、それこそギリギリの状態で成功させていた。のちに彼らの記録を見て大いにゾッとし、燃え上がる嫉妬心を抱いたものだ。
その9年後、彼らと共に僕が黒部に入るとは思ってもいなかった。それも32日間に及ぶ極めて異例な計画だ。しかも計画の目的は黒部剣沢大滝のゴールデンピラー登攀だという。ゴールデンピラーとは、伊藤・佐藤・岡田康らが大滝尾根登攀時に見た剣沢大滝右岸に厳つくいきりたつ急峻な岩壁のことで、カラコルム・スパンティークのリッジ「ゴールデンピラー」になぞって命名したものだ。2015年にこのトリオは25日の計画で黒部ゴールデンピラーを狙ったが、黒部の悪天候に25日計画では足らず、今年は32日間の計画で挑むことになった。伊藤が差し出した写真に写る剣沢大滝のゴールデンピラーは本物のゴールデンピラーに勝るとも劣らぬどころか本物以上にぶっ立っており、厳つく、強く、太く、力道山の朝立ちを連想させるほどに凄まじいプレッシャーを放っている。カラコルムのゴールデンピラーを第三登している佐藤裕介が「本物よりも難易度は高いだろう」と言う・・・・・・。

――いろいろあって、劔岳登頂目前の3月3日(黒部横断30日目)

立山稜線上でホワイトアウト。テントが引き裂かれそうな激しい烈風に3人でガタガタ震えながら耐えていたところ、伊藤がテントの端からチョコの破片を見つけた。
「このチョコ、ジャンケンで食う人決めよか?」
そう伊藤が提案してきたのだが、僕の内心は穏やかではなかった。なにせお腹と背中がくっつくように腹が減っていて、公平とか平等とか皆の為にといった「俺はチョコいらないから皆で食いなよ」的なキリスト的自己犠牲の精神はとうの昔に失っている。というか、そもそもが貧乏性のガメツイ性格なので、下界で満腹のときであっても「俺のチョコだ!」と叫んでいたと思う。だから、たとえ嫌われようが1カロリーでも摂取して自分の体温を上げて生きのびる為の活力にすべく、いつも通り欲望丸出しで伊藤に言った。
「ジャンケンで決めるだと? それは俺がさっき食ってたブラックサンダー(チョコ)の破片だ。俺のもんだろ!」
そう言って伊藤の手からチョコの破片を強引に奪い取った。(伊藤はチョコの破片に血走った目でいきりたつ俺に、素直に渡さないとぶん殴られると思ったらしい)
氷ついたチョコの破片は小指の爪先程の大きさしかないが、僕にとっては同重量のダイヤモンドと同価値に値するものだ。チョコの破片を落とさないように慎重に口元に運ぶと、舌先で丁寧に撫で回し、氷を溶かし、生娘の秘部を愛撫するように優しくゆっくりと奥歯で噛みしめた。ほんのりとした苦味の後に、嗅覚えのある特徴的なあの臭いが口中に広がり、それは次第に……。

「うげっ、ウンコじゃねーかこれ!」


タイのジャングルで毒の実を食ったことを思い出しながら小便用のタンクにペッペとウンコを吐き出した。3人ともガタガタと震え続け、今にも吹き飛ばされそうなテントで命の心配をする傍ら、伊藤・スター佐藤裕介からは「さすが46日のジャングルを生き延びたナメちゃん(宮城)は生に対する執着心が半端じゃないな、かなわないっす」と、「ウンコ舐め太郎」として小学生並のプリミティブなイジメを受けた。


「ちっくしょー! それにしても、俺たち大人になれないなぁ」
「そもそも、まともな大人はこんなとこ来ねーだろ」

いい仲間に恵まれ、楽しい人生を歩んでいることをウンコの苦みと共に噛みしめる。しかし、なんでテント内にウンコがあるのかは謎だ。




さて、話変わって宣伝になりますが、3月25日に集英社インターナショナルより集英社・開高健ノンフィクション賞の最終選考に選ばれた僕の処女作である「外道クライマー」が発売されます。登山や登攀の世界を知らない人にも読める内容になっているかと思い升。スター佐藤こと、佐藤裕介のエピソードも盛りだくさんですので、佐藤裕介ファンの人は買うべし。

アマゾン
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%96%E9%81%93%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC-%E5%AE%AE%E5%9F%8E-%E5%85%AC%E5%8D%9A/dp/4797673176

加えて、角川映画「神々の山嶺」(僕もちょっと出ている)に関連し、発売中の言論誌・集英社インターナショナル「kotoba」春号にて、神々の山嶺の原作者・夢枕獏氏と宮城の対談が載っています。こちらも宜しく。

さらに加えて、次号のエイ出版「ランドネ」で「神々の山嶺」の監督・平山秀行氏との対談記事が載るので、そちらも是非。

IN,スプリング!


ウンコ舐め太郎こと、宮城公博






左・スター佐藤、中・伊藤、右・宮城公博(舐め太郎)

鹿島槍への登り



十字峡を全裸渡渉する宮城のケツ



剣沢大滝I滝とピラー

劔岳山頂にて


2016年1月4日月曜日

海谷横断

「年末年始、海谷の旅」
和田一真、宮城公博(セクシー登山部)


 カサカサやヌチャヌチャの白い雪つぶてが重力に逆って下から上へ、あるいは右から左へと、中空へ吸い込まれるように濛々と舞い上がり、それが肉体にぶつかって砕けて飛んでは、一回転して眼球を刺しにくる。眉間に皺を寄せて薄目でそれを耐えるものの、イライラの針はずっとメーターを振り切っていて、敬虔なクリスチャンが聞いたら失神するような罵詈雑言を雪に吐き出し、ついでに絡んだ痰も掃き出し、ズルズルヌメヌメとナメクジのように這いずって進む。鉛色の空から烈々と降り注ぐ湿り雪は下着から陰部までびしょ濡れにし、踏み出すごとに足周りに推定5kgの雪団子のプレゼントをくれる。足先に重りを乗せたまま筋力トレーニングのような歩行運動を延々と気の遠くなるような時間繰り返し、脹脛と太腿の筋肉たちが魂が失われるような悲鳴をあげるものの、なんだか負けたような気になるので悲鳴から耳を塞いで休まず歩む。すっからかんの胃腸と脳が炭水化物・糖分を猛烈に求めているが、ポケットには飴玉がわずかに二つ。パートナーが「今日はここまでにして、テントはろうか?」と言ってくれるんじゃないかと脳みそが期待しているが、僕の口先は「今日はヘッドライドつけて夜中までラッセルを続けるか!」なんていうとんでもない単語を吐いている。そんなこんなしていると、雪煙が静止して視界がぶわーっと開け、白い藪尾根の先、いつも鈍色の糸魚川の街並が艷やかな灰色の建築物群と澄んだ青の海セットとなってまるでジブリ映画に出てきそうなハッピーなオーラを放ち、それがおっぱいのような山の谷間に慎ましく申し訳なさそうに挟まれていて、とてつもなく可愛く、そんな素敵な景色を眺めて幸せを感じると同時に、「俺たちこんな目にあってんのに、あそこでセックスしているカップルがいるんだな」と、つくづく今年もハッピーニューイヤー




全身を新品のモンベルのカッパで固め読図するナメ太郎。世界的に見ても極めて高い不快指数を誇る山域に居るにも関わらず、まるで核シェルターに引きこもっているかのごとく厳しい外界から身を守ってくれるモンベルのカッパ。モンベルの商品があまりに素晴らしすぎて、これでは登山者が山で自然の厳しさを体験する機会を奪っている! と、まぁ、冗談のようなヨイショはさておき、ぶっちゃけ、この手の雪山では何着ても濡れるし、藪でグサグサになるので、高価なパタゴニアのハードシェルより比較的安価な新品級のモンベルカッパあたりがベターなのは確か。あ、俺はその比較的安価なカッパを買う金もないので、心優しいモンベルさんに商品を提供して頂いて升。これはどちらかというと、アウトドア企業がクライマーの挑戦を応援というより、いち企業が橋の下の住人を支援するという感じでの提供。そんな感じでカッパを貰った。と、こんなこと書くとモンベル広報部に怒られそうだ。ちなみに、誤解されるといけないのですが、山岳誌に載っている海外遠征で成果を出している有名クライマー連中が、アウトドア企業から大金貰っていると思ったら大間違いで、優雅に泳ぐ白鳥が水面下で激しくバタ足しているように、大抵は細々と短期の肉体労働をして稼ぎ、それでクライミングに出かけているのです。その短期労働で食いつなぐというのもそれなりに大変で、個人事業主としてそこそこの自己管理能力が求められる。どれくらいの能力かというと中堅企業なら課長以上クラスの能力がないと厳しい、となんとなく推測。自分で稼がないのであればヒモとして生きるスケコマシ能力がいる。もしくは秒速で億を稼ぐに代表される教祖・詐欺師・マルチビジネス家としての才能を持ってして「夢を追って生きよう!」などと言った聞こえのいいメッセージを発し、企業講演をハシゴして食いつなぐスキル。クライマー魂に正直に生きようとすると、世の中、雪山のように冷たいのです。



ワカンを背負ってラッセルをする舐め太郎。我ながらワカンの背負い方がカッコイイと思っている。


湿度100パーセントの猛烈な湿雪でも焚火をするのが沢ヤということで、三島由紀夫と週刊プレイボーイとゴミをファイヤー。雪山でスコップは焚火の台座として役立つので覚えておきましょう。徹底的合理主義に基づく研ぎ澄ませた軽量化こそアルピニズム的な衝動と自制だ! などと言いつつ、山に本を持って行くことで文化系男子ぶるのがセクシー登山部として正しい姿勢。あれだ、グラビアでオナニーして、精液の軽量化と、蛋白源の摂取という永久機関論。


エビグラというナウい壁へロープを伸ばす、和田くん。
「宮城さんのこと、暴れキャラだとみんな誤解してるけど、ぶっちゃけ良識人ですよね。自分の狭い枠組みの中でしか物事を考えられない人にはただの怖い人に写るんでしょうが、過激なように見えて、やること言うこと筋通ってるし、先人達の築いてきたものを正当に受け継いでいるだけじゃないですか。それを踏まえた上でね、モテに関したこというと、宮城さんは本当のことを言うからモテないんですよ。嘘ついてでも相手に話合わせないとダメ。でも、そういうのできないんですよね? 合理的・建設的な話が通じない人と仲良くできないでしょ? 俺もできないんですよ。だから今後もモテないですよ、お互いに」と、モテ論を展開する和田くん。


 
ラッセル中の和田くん。ずっとラッセルで、そして藪もラッセル。そして藪ズボ。



黒部横断の白眉が黒部川の渡渉なら、海谷では海川となる。


バットレスと言えば北岳! ではない。バットレスと言えば、もちろん日本のバルトロ氷河こと海谷の海老グラバットレス。山岳史試験に出るので覚えましょう。



鉛色の空の下、鉢山山頂から阿弥陀&烏帽子を睨む舐め太郎。岳人の魂ことアックスは、雪崩にぶっとばされたときに無くしたり、あるいは貧乏なのでその場の勢いで売りさばき、今回は借り物。そんな借り物の魂だが、そこにもホンモノの魂は宿る!!


日本のバルトロ氷河こと海谷。扇のように白い翼を広げる粗悪な岩くずの集合体である鋸山は、カラコルムの白眉ことチャラクサ氷河のK6を思い出させる。ここをバルトロ氷河と命名した先人のセンスは素晴らしい。本気なのか、俺たちのように自虐ナンセンスを込めているのか……。


ゴール